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希望をもたらす抗癌剤-実話
    記事番号:41
    記録日  :Jan02/2004,12:35
    記録者  :Admin

2002年の初め、ケイト・ロビンズは自分の死についての手記を書き始めた。それは自分が肺癌で死亡した後の2人の子供への道標とするものである。母として10代の子供たちに言い聞かせておく事柄として、その中にデートについて、道徳について、更に家族についての助言を注ぎ込んだ。

彼女はまた,静なる時と激しい時についても記述している。
ある雨の日、10歳のヒラリーがスクールバスに乗るのを見てロビンズは涙を流し始めた。“今日のお前はなんて可愛いんだろう”単にそう書かれている。 何年か後に子供達がこの手記を読み、そこに母親の愛情を汲み取ることであろう。

進行性肺癌患者が1年以上生き延びられることは稀であり、ロビンの余生は数ヶ月である。それで昨秋、‘イレッサ’と呼ばれる試薬を用い始めた、これはアメリカの数百人の患者が用いている試薬であるが、その多くは引き続き悪化している。

然し、ロビンズを含む小さなグループでは成功している。
癌の中でもその進行性が最も早く且つ最も転移性が強い殺人鬼と呼ばれている肺癌が、この試薬投与のたびに目に見えて効果を顕し、ドクター達は驚嘆している。

目下、研究者たちは,当代最も意義深い新肺癌剤である‘イレッサ’が何故一部の限られた患者にしか効能を顕さないのか、その理由の解明に競い合っている。 遺伝上のスクリーニングテストを行うことで、この薬を早期に適合者に投与できるようするため、謎解きの糸口として患者のDNAの研究を行っている。 もしこの謎解きに成功すれば、肺癌犠牲者の内少数の人は余命を得ることになる。 統計に依ると年間157.000のアメリカ人が肺癌で亡くなっており、この謎が解明されればそのインパクトは相当なものとなろう。

この努力は、患者と薬の遺伝的適合性を調査する薬品開発の一分野であり、このような個人別施療が21世紀に於ける健康管理の中心になることは間違いないところである。

ロビンズの主治医であるMassachusetts General Hospitalのトーマス・リンチは、ロビンズ以外の患者で‘イレッサ’投与を始めて3年間も健康でいる人もいる、と話している。

『私は1989来肺癌施療に従事しており、毎年500人の患者を診ているが、この症例がこれまでで最も意義深いものである』と話している。

昨週、46歳のロビンズは5ヶ月後の最初の検査を受けたところ、臓器中に拡散した16個の突起腫瘍の内3個は消滅していた。

『これは正に驚くべきことである』と彼女は言っている。

ロビンズは、大きな目をした丸くて少女っぽい顔付きで、話すときはエネルギーに満ち情熱的で、時折ボストン訛りが突いて出る。
彼女はChelmsfordで育ち、4ヶ月前Connecticutの田舎からMGH(Massachusetts General Hospital)に近い Concordに移ってきた。 彼女は以前看護婦として働いていたが、現在13歳のトムと11歳のヒラリーを養育するため仕事を止めた。夫のマークはEmerson Hospitalの癌の医師である。

健康面を見ると、彼女は一般の40歳台の肺癌患者とは異なっている。肺癌に依る犠牲者の85%は過去か現在において喫煙者であるが、ロビンズはこれまで喫煙していない。彼女は殆ど飲酒もしないし、動物の受難を嫌い10歳の時に菜食主義者になった。 然し2002年のある日,極度の頭痛が起こった、そのとき『これは休日明けストレスに依るものではないかと思った』と言っている。

MRI検査で小さな脳腫瘍が見つかり、更に詳細な検査を受けた。 ある検査が終わり、彼女の夫が検査結果を抱えてやって来たとき『夫が狼狽しているのが分かった』と言っている。

彼女の右上部肺葉には8cmにおよぶ腫瘍があり、脳にも1つあった。まさしく転移性進行癌である。 余命は8ヶ月から10ヶ月と予知された。 アメリカ人の肺癌に依る死亡数は、乳癌、直腸癌及び前立腺癌による死亡例を足した数より多い。

ロビンズは、このような気分を怯ませる統計的数字を無視することに決め、癌と戦うよう心に決めた。 “私は奇跡を信じます。そして私が奇跡です”とカソリック思想に専心した。

外科医により2002年2月に脳腫瘍を除去し、その1ヶ月後伝統的な化学療法を開始した。
彼女は死記を書き始めた、これにはEmerson,やThoreau,その他から抜粋した金言を書き留めた。Martin Luther King Jr.が唱えるところの“自分の人格が内蔵するものは何なのか”と常に自問することを強く息子に勧めた。

丁度その頃MGHのリンチと出会い、同病院の肺癌専門知識に頼ることに決めた。
リンチはこれまでとは違った化学療法薬物を使用し、毎日胸部への放射線を照射した。息子を怖がらせるほど頭髪は抜け落ちた。

2002年7月、ロビンズは肺の一部を切除した。これは危険を伴う手術であり、首上部の切開から始まり、下方背部へ、次いで前腹部辺りまでの切開を含むものであり、その複雑さのためひと夏中入院することとなった。

このような施術の後、最悪なことに、スキャンの結果肝臓と膵臓に腫瘍が見つかり、何らの効果も認められなかった。

ある夜ロビンズは夫に対し、『手術は自分にとって大変なことであったけど、上手くいかなかった、私はもう死ぬかもしれない』と話した。

再度化学療法を試みたが失敗に帰し、腫瘍は膨張し続けた。 リンチは、英国の医薬品会社であるAstraZenecaが行う試薬品イレッサに依る無料の施療を受けられるよう、その登録簿に彼女の名前を載せた。

連邦政府が抗癌剤として始めて認可した“特効薬”イレッサは、最小限の副作用で癌細胞をピンポイントに退治する幾つかの新薬の一つである。肺癌に対する初期テスト段階において、少なくとも二つの似通った薬品がある。その他の特効薬は数千人の乳癌患者を救う一助となっており、更に目下これらが実際に全ての癌に使用できるものなのかどうか再調査されている。

ロビンズは“最悪に備え最良を目指し”、昨年の11月以来1日1回のピル投与養生法を始めている。

彼女はイレッサを始めて最初の検査を今年の1月に受けた。腫瘍は残っていたけれど、やや小さくなっていた。3月の検査では更に縮小しており、6月にはもっと縮小していた。

一方、5月FDAは、これまでイレッサ以外の薬品或いは放射線の2種類の治療を受けても上手くいかない肺癌患者に対しイレッサを認可した。

この認可は有る意味で大規模な試みであり、これにロビンズが参画しているのだが、患者の13.6%はその腫瘍が50%以上縮小している。
一度は死の扉を目前にした15人の患者の証言に動かされ、FDA当局はこの薬品を認可したが、この薬はこうした切迫した状態の患者に与えられるべきものであり、これが大型破壊爆弾となる可能性は少ない。

恰もジグゾウパズルの失われた一片を合わせる如く,イレッサは肺癌細胞表面の表皮成長要因たる感覚器官を捕え、腫瘍の成長拡散を促がす生物学的シグナルの繋がりを遮断するものである。イレッサは肺癌の約80%を占める非小細胞肺癌の患者に対し有効である。

『良い報せがあります、それはここに長期間にわたり上手く行っている患者グループが実在し、何年もの間話すことができています』と、1990年代後半イレッサの研究を最初に手掛けたMD Anderson Cancer Centerの肺癌の専門家であるロイ・ハーブスト博士が話している。

初期の資料では、この薬は禁煙者に有効であり、またbronchioloalyeolar(細気管支肺胞)癌腫と呼ばれる腫瘍を持っている人達にも有効であり、女性に対して有効である、と示唆しているように見える。
然し、これは不正確な判定であり、現に私の男性患者で喫煙者であってこの薬が効果的な者がいる、とリンチは注意している。

現在15.000人以上の患者がイレッサ施療を受けているが、研究者たちは、この薬が効能を顕す患者のDNAに求めている答が見つかることを期待している。これは遺伝学的見地から、患者と精密な薬品がどのように適合するのか、と言うことを探求する薬理遺伝学と言う突然出現した分野の研究課題である。

『私が個人的に確信するところでは、イレッサの対象となる人々は極めて少人数になるものと思える』とDana Farber Cancer Institute in Bostonのブルース・ジョンソン医師は話している。

例えばジョンソンのような研究者たちは、イレッサが治癒医薬品だとは考えていない。イレッサの効果がどれくらい長続きするかは不明である。彼らは、イレッサはこれまで生き長らえる為の選択肢が殆ど無かった肺癌患者にとって重要な緊急的薬品の一つであると考えている。
目下臨床試験中の薬品であるErbitux及びAvastinが最優良候補と考えられている。

ロビンズにとってイレッサは、この薬の典型的な副作用である時折の下痢と発疹を伴う遅々としたものではあるが、生命を回復させるものであった。
彼女は子供の課外活動のためフェリーで送り迎えし、家族で大切な時間を過ごしている。

『今や自分で人生を設計し、その人生をまっとう出来るよう精一杯生き抜く時です』『人生の本質は愛です』と彼女は言っている。先週ロビンズは腫瘍が消えているのを知った。

彼女は“治癒”という言葉を使うことを拒んでいる、何故ならば、これまでに何人の患者が元通りの健康体に戻ったかということに関するデータが無いからである。 リンチはそこに就いては“未知の分野”としている。

ロビンズは既に癌罹患後の平均余命の2倍を生きている。
目下、彼女の新たな人生目標は、“4年先に息子が高校を卒業するのを見届けたい”という事である。

そして彼女は死記をクローゼットに仕舞い込んでいる。

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